a2 エンジニア的読書

某SIerに所属するエンジニアの読書記録。個人ブログなので所属組織の見解とは関係ないのでご注意ください。週1本が目標です。

単なる時間術の本を超えた「なぜ、あなたの仕事は終わらないのか」(著:中島 聡,2016)

なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である

なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である

本書との出逢い

とある日に立ち寄った書店で、平積みされていて気になっていた。読みたい本リストに即刻入れたが、仕事術系の本はこれまで多少読んできたこともあり、それ以上の興味はなくしばらく忘れている状態だった。本書が発売されたのが2016年6月で私が最初に読んだのが、2017年7月なので、1年近くベストセラーとして扱われていたことになる。という中で、なぜ本書の購入に至ったのかというと、堀江貴文さんがエンジニアだったら中島聡さんを知っておくべきと言っていたことと繋がったからだ。それまで中島聡さんのことは全く知らなかったが著者に興味が湧き、本書の中身と言うよりはどのような方なのかを知るために読んだというのが正しい。

本書を読んだ目的

最初に読んだのは、2017年7月。出逢いにも記載したが、中島聡という人物が気になってどういう考え方をしていて、どのような仕事をしているのかを知るために読んだ。きっかけはそうですが、読み進めていく中でエンジニアとして刺激を受けたのが印象的。再読という形で改めて「なぜ、あなたの仕事はおわらないのか」という本について記載していくことにした。

仕事術に関する本でも、一流のエンジニアが記載している本は少なく、同じ目線がわかるからこそ読む側も得られることも多いと思う。日々、目の前のタスクに追われているエンジニアの方に少しでも興味を持ってくれればなぁと思いながら私なりにまとめておきます。

中島聡という人

私もこの本を読むまでは中島聡さんについて詳しくは知らなかったのですが、日本マイクロソフトのde:code(2017/5/23-24) にゲスト出演されていた 堀江貴文さん のセッションにて購読すべきブログに中島聡さんの名前を挙げていた。本書の中でも中島聡さんの経歴がしっかりと語られていますが、中島聡さんと言えば、Windows95の開発に携わられ ドラッグ&ドロップ を普及させた人物というのが代名詞。現在もエンジニアとしての活躍されている現役のエンジニアです。

時間術の本ではあるが・・・

本書は、時間管理の方法としてロケットスタート時間術と題して40年間実践されてきたことを書いている。もちろん、その方法はとても素晴らしい考え方で自身の仕事人生に取り入れて実践すべきことだと感じた。時間管理の方法を取り入れること以上に、エンジニアとして日々活動している身として中島聡さんが歩んできた エンジニアとしての考え方 の部分を知ることに価値があると思う。

ただの時間術のビジネス書でなく、エンジニアとしてのどのように活躍していくべきかという1つの指針 が書かれているように思う。その中でもエンジニアとして活動している私が特にこの考え方に共感したことを3つあげる。

「まず作ってみる」が、未来を変える

1つ目は、「まずプロトタイプを作る」 という仕事法です。中島聡さんがCANDYという機械や電子機器の設計書を作るためのソフトウェア、今で言うCADソフトウェアを開発していたというエピソードがそれにあたる。その開発は、最初の2週間で「なんちゃってCANDY」というプロトタイプを作成し、それを見せることでアドバイスを得る、改善するということを繰り返していたそうです。またCANDY以外にも、OSにATOKを搭載するにあたりなんちゃってATOKとしてプロトタイプを作成したり、マイクロソフトで次世代OSのプロトタイプを作成したことで、それがのちにWindows95の種となったエピソードだったり、プロトタイプを作ることで成功しているケースが多数掲載されている。

机上で設計し認識合わせを行なって合意形成しながら進めていく方法は、日本のSIerという特殊な文化が生み出してしまったものだと私は思っている。実際にモノを作ってみる、プロトタイプを元に認識を合わせる、プロトタイプを改善していく、そういうアプローチでモノづくりを進めた方が本来は良いのではないか。そのためには、いかに早く形にできるか という所が重要で、自分で手を動かして作ってみる 精神がエンジニアにとって重要な資質ではないかと。

ただ、SIerに所属する方のほとんどは、実際には手が動かない(動かせない)という問題もあり出来る人は実は少ない。サッと作って見せれる人材は価値が高いということになる。

見積もるには、とにかくやってみることだ

2つ目は、作業の見積もりについてです。1つ目に取り上げた「まずは作ってみる」という考え方に共通するところもありますが、何か作業を依頼された際には、安請け合いをせずに、最初の2日(締め切りまでの期間の2割) でやってみる、そして8割終われば期間内でできると判断しそうでなければ期間内でできないと伝えるというロケットスタート仕事術についての考え方のベースになっている考え方です。

エンジニアであれば、見積もりを行うことは頻繁にあるのではないでしょうか。私も色々な仕事の依頼でどれぐらいで出来そうか聞かれます。その際には、何か過去の知見をあたかもそれらしい理由で見積もりに仕立てあげて、これぐらいで出来そうですと答えているのが実際です。しかも見積もりをそれらしく見せるために2日ぐらい時間を使ってしまったりします。それってムダだなぁって改めて痛感させられました。

エンジニアが行なっている仕事は、毎回同じ仕事はほぼなく、常に新しい技術要素やアーキテクチャの違いなどがあり、正確に見積もれるものじゃないと思っている。もし簡単に見積もることが出来る仕事であるなら、それはエンジニアがやらなくてもよい仕事と考えるのが正しいのかもしれない。

集中しなきゃいけない仕事はするな

仕事に対する考え方についても書かれている。気になったのは、「好きな事に思いっきり向き合う」「恐るべきは自分のやりたい事に不誠実になる事」「集中しなきゃいけない仕事はするな」 という言葉です。3つともに共通することなのですが、中島聡さんの時間術を実践して、自分の好きな事に時間を使いましょうという熱いメッセージ。

働き方改革」という名のただ単なる早く帰りましょうみたいな施策にどのような意味があるのか。過酷な長時間労働は悪であるのはもちろんその通りだと思いますが、自分が本当に心からやりたいことであれば、時間は苦にはならないのではないのでしょうか。私も小さい頃はテレビゲームを時間を忘れて没頭したものです。その時は、集中しようなんて考えてないわけで、苦にもならないわけです。極端な言い方ですが、そういう感覚で仕事ができるかどうかなのではないでしょうか。(決して、長時間労働を肯定しているわけではありません。)

エンジニアの方は、つまらない雑用に忙殺されずに自分が本当にやりたいこと(新しい技術への取り組みとか)に没頭できる環境を見つけるべきというメッセージだと。

日本のSIerのあり方が問われている?

あとがき に書かれている内容がグサッときた。

日本では、そんな「ITインフラ」の構築はITゼネコンと呼ばれる、巨大なIT企業が受注し、設計だけして開発は下請けに丸投げする、という形で作られるのが一般的です。・・・中略・・・しかし、そんな開発手法では決して良いものは作れないし、優秀なエンジニアが働きたいような環境は作れません。国際競争力のあるソフトウェア企業も、そんな業界からは決して生まれてきません。

この考えにはすごく共感。この問題にどう取り組んで答えを見つけていくのかが今のSIerに求められていることだと思う。

単なる時間術の本でなく、中島聡さんのエンジニアに対して熱い思いが感じられるので興味がある方は読んでみてください。

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